「YESレター」スタート!

今年も、「YESレター」の活動を始めました。

教師になって、3年目(現在、8年目です)。
クラスの友だち同士、
お互いに認め合う関わりを創っていきたいと思い、
始めた活動です。

下校までに、「今日の相手」を子どもたちに伝えます。
子どもたちは、家に帰って、「YESレター」を書き、
次の日、レターを教室のポストに入れて、配ります。

以下は、2年前、「YESレター」の活動について、まとめた文章です。
今年のクラスでは、どんなふうに進んでいくかな?

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ことばをつなぐ、心をつなぐ

〜“あぶくのことば”はクラスの宝物〜

1 はじめに 〜あぶくのことば〜
 朝8時すぎ。教室で待っていると、ひとり、またひとり、子どもたちが登校してくる。顔をあわせる順番は、毎日ほとんど変わらない。5人をこえたあたりから、教室は、にわかに活気づいてくる。
 「○○テレビ見た? おもろかったなあ!」 
 「きのう、あんまりねてへんわあ…」
 「きいて〜。お父さんに、おまえ太ったなって言われたあ。ひどいと思わへん!?」
 「あっ! 宿題わすれた〜」
 「このゴムの色、かわいい!」
 「なあ、今日帰ってから、あそべる!?」
 いろんな生活背景を抱えながら、“いま”を全力で生きている子どもたち。朝学習までの短い休憩時間さえも、情熱的で、雄弁家だ。朝ごはんのメニューから、テレビ番組、アイドルの人気ランキング、宿題のクラス比較まで、毎日、話題は尽きることがない。おしゃべり上手な女の子のグループは、時間さえあれば、いつまでもしゃべり続け、その横では、やんちゃなグループが、声とからだでじゃれ合っている。
 子どもたちが無意識に交わしている自然体のことばを、私は「あぶくのことば」と呼んでいる。友だち同士、何を言っても大丈夫。気を使うことも、背のびをする必要もない。そんな安心した人間関係の中で、ことばがあぶくのように生まれ、消えていく。
 一方で、子どもたちの人間関係は、いつも限定的で、たよりない。例えば、グループ化。好きな者同士の仲間意識は、時にそれ以外の子への排除へ向かい、仲間には過度な期待を押し付ける。やがて、必要以上に気を使い、背のびをし、疲弊した人間関係が生まれていく。また、高学年になれば、男女間の仲間意識も難しい。こうした壁にはばまれて、あぶくのことばは分断され、グループごとに閉じていく。
 一年間、同じクラスで過ごしていくなら、仲間内だけで終わらず、男女間の壁もこえて、自由に交流してほしい。子どもたち一人ひとりがつながることで、教室が安心して過ごし、気軽に自分を表現できる場所になってほしい。こんな願いをもって二つの活動に取り組んでいる。

2 「ひとこと日記」〜あぶくのことばを残し、交流する〜 
 4月、始業式、学級開きの日から、「ひとこと日記」の活動をスタートさせる。帰る前のひととき、子どもたちは毎日の日課として、その日のうちで一番心に残ったことを短い文章にする。
「今日、5年になって一番最初に食べる給食。いつもよりおいしかった!」
他己紹介で、私は○○とペアになりました。○○のことが前より少しわかったような気がしました」
「給食の時間に先生におこられた〜。先生、ごめんなさい。ペコ!」
「だんだん友だちとも仲良くなれてきて、よかった〜」
「サッカーで初ゴールを決めた。入った時、気持ちよかった。もっといっぱい入れたいです」
「友だちとケンカして、どっちがわるいか分からんけどあやまったら仲よくなった〜。ワッハッハッ!」
「調理実習した。果物、みんなで食べるからすごくおいしかった。また調理実習したいな」
「今日、参観のとき、母さんがかくれてておもしろかった。見てくれオレを。見てくれ〜!」
「友だちとけんかしたけど、仲直りしました。すっごくうれしかったで〜す。やった〜!」
「運動会の練習でぼうたおしをしたよ。みんな一週間がんばった〜。今週も、がんばろ〜!」
「給食の時間、男子が○○くんをはげましていて、やさしいな〜と思った」
「理科のテストむずかしかったでーす。あつい日がずっと続いてて、めっちゃあついでーす」
「今日、米作りがスタートした! どうなるか楽しみ〜」
「社会、めっちゃおもしろかったー。先生もみんなもわらいすぎて、はらいたかった〜!」
「私は絵が好きだけど、かくのはむずかしいです。コンクールで認めてもらいたいです。がんばります!」   
「図工が楽しかった。○○くんの絵、めっちゃうますぎ〜」
 毎日、子どもたちは飾ることなく、自分の気持ちを書き残していく。この文章を学級新聞にまとめ、翌日、クラスみんなに配布する。文章には書いた人の名前もそえている。
 新聞を配ると、子どもたちは一斉に読みはじめる。ほとんどの子が学級新聞を楽しんでいるようだ。
 自分の文章がのっている時はもちろん、友だちが何について、どのように書いているか、興味をもって読んでいる。同じ授業でも、受け止め方がちがったり、書いていることが反対だったりと、友だちの感性のちがいも面白いようだ。また、普段はおとなしいのに、ひとこと日記ではいきいきと表現している子、記事づくりに参加する子など、学級新聞が子どもたちの活躍の場にもなっている。また、子どもたちが新聞を家に持ち帰った後は、ご家族やきょうだいも楽しまれていると聞く。
 1年を通じて、「ひとこと日記」を読み続けることで、子どもたちはクラスの友だちをより身近に感じていくようだ。また、「新聞への愛着」が「クラスへの愛着」へとつながり、日を追うにつれて、少しずつクラスの親密度が増し、優しくまとまっていくように感じる。
 もちろん、子どもたちの文章を読んだり、新聞にまとめたりする時間は負担ではある。しかし、その作業は、子どもたち1人ひとりの気持ちを知り、ゆっくりと考える時間でもある。子どもたちが残す「あぶくのことば」は、自分の学級経営を支える柱の一つになっている。

3 「YESレター」〜あぶくのことばで人間関係をあたためる〜
 子どもたちがいろんな経験を積み重ね、お互いを知り、関心をもちあい、クラスが何となくほっこりしてきた時期(2学期〜3学期)に、「YESレター」という活動を始める。
 “YES”は、「友だちを認め、受け入れ、尊重することば」として、子どもたちに紹介する。
 好き、うれしい、それでいい、だいじょうぶだよ、一緒にいたい…。
 友だちと過ごす長い時間の中で、たくさんの“YES”を見つけられたら、どんなにすばらしいだろう。そして、自分が感じる“YES”を、言葉にして友だちに伝えることができたら、どんなにいいだろう。
 「YESレター」は、まず担任が、その日に手紙を書く相手を一人ずつ伝えることからスタートする。子どもたちは、ドキドキしながら名前を聞き、それから手紙の内容をゆっくり考え始める。
 「書くことが思いつかなくても、一生懸命に考えてね。その時間が大切だよ」。
 子どもたちには、そう伝えている。
 なかなかうまく書けない子もいる。書いていいこと、悪いことの区別を覚えていくのもこれから。でも、自分と相手との関わりの中に“YES”を見つけ出し、あたたかいことばにつむぎ直していくうちに、何となく“手紙を書くコツ”を覚えていくようだ。そして、その中にはきっと“友だちとつながるコツ”も含まれているはずである。
 この「YESレター」の活動では、担任は手紙の中身をチェックしないと伝えている。子どもたちへの信頼は、この活動の大切なポイントだからである。この信頼があってこそ、子どもたちは自分のことばで書くことができ、もらった時にうれしいと感じることができる。一方で、手紙が友だちを傷つけることは防がなければならない。そのための事前学習を含め、「YESレター」で人間関係をあたためられるクラスづくりは、一年間の大きな目標の一つである。
 子どもたちが書いた「YESレター」は、次の日、教室のポストに投函され、その日の休憩中、みんなで手紙を届ける。一年が終わるまでに、クラス全員に「YESレター」を出し、クラス全員から「YESレター」をもらうことになる。手紙をもらった子どもたちは、一様に照れ顔だが、うれしそうでもある。
 友だちとつながり、認められている実感は、新しい学年へと踏み出すための、何よりの自信となってくれるはずである。
 
4 おわりに
 たくさんの友だちと、ともに学び、ともに遊び、ともに歌い、ともに走り、ともに笑う…。そんな舞台で生まれてくる「あぶくのことば」。時に、失敗したり、悩んだり、怒ったり、うれしかったり、傷ついたり、感動したりと、教室にたくさんのドラマを運んでくれる。子どもたちの飾りのない、ありのままのことばは、やっぱりクラスの宝物だ。たくさんのことばをつなぎ、心をつなぎながら、子どもたちが安心して過ごせるクラスをつくっていきたいと思う。教室を、“あぶくのことば”にあふれた場所にしたい、と思う。